走らない

ゴンゾウさん(写真のへんなパンダ)が家にやってきてからというもの、どんどんと増え続けるミニチュアの食玩。
どうして普段のサイズより小さいというだけで、こうも胸躍るのか。そういえば昔からシャープペンシルの芯のおまけについてきた「おむすび消しごむ」(中にうめぼしの形の消しごむがはいっている)(消しごむといえども字は一文字も消えない)が意味もなく好きだった。これはもう性分なのだ。
ゴンゾウさんにはやや小さい、掃除機でかりっと吸ったらいっかんの終わりみたいなミニチュアを眺めて楽しんでいるうちに、妻はこれを飾れるような小さな家が欲しくなったのだった。「鼻さん」が住めるぐらいの、小粋な和室が良い。庭があればなお素敵だ。

そこで調べに調べた結果、数年前に入浴剤のおまけとして売られていたという一軒家を見つけてオークションで購入。各部屋がばらばらに入っていて、つなげると立派な家になるしくみ。しかも家具までついていた。こうなるとすでに入浴剤がおまけだ。

極めてサザエさん的な部屋にはこたつとみかん。たんすの上にだるま。台所にはふきん掛け。流しの下にはうめぼしのかめ。窓なんかもちゃんとあって、妻は虫さえ出なかったらこんな家に住みたい。

お風呂とトイレも昭和なおもむき。
小学校の時にサンタクロースにもらった「シルバニアファミリー」よりもべらぼうにわびしい風情。おまけにお風呂ではきれいなおねえさんが入浴中。もちろん取り出してしみじみ眺めてから新住人の鼻さんをどーんと投入。

がっ。

小さすぎた。
あんなに調べたのに。悲しみに暮れながらただのオブジェと化した一戸建てをそっと戸棚にしまう。
しかしよくよく考えてみるとこれでは妻の持っているミニチュアを置くことが出来ない。かといって「週間ドールハウス創刊号は280えん」などの家は気が長い上に緻密すぎてきっと妻には作れない。そこでお得意の100円ショップに出かけて具合の良さそうなものを探し、考え考え簡易ハウスを作ることに。

木目の模様の発泡スチロールのような板(100円)を長さも測らずにカッターで切り、ガムテープで固定。壁紙として和紙の粘着シート(100円)を貼って適当極まりない部屋をこしらえた。入り口や長押(なげし)のつもりの木っ端なんかはつくね用の竹串(100円)にニス(100円)を塗って貼り付けただけだ。不器用な妻は「のこぎり」を扱えないのでぶあつい竹串は根性ではさみで切った。指がもげるかと思った。もう二度とやらない。

外側の、ガムテープちぎりっぱなしの見栄えをどうにかするべくぺらぺらの板(100円)をはさみでちょきちょきと切ってニスを塗り、貼り付けると見事なバラック小屋に。発泡スチロールむき出しよりははるかにましだけれども、さっきの一戸建てに比べるとどうやっても「夏休みの工作」感が否めない。

そういえば昔「発泡スチロール」の事を「発泡すチロール」だとずっと思っていた。「欲す」や「伏す」のようなサ行変格活用的なものだと信じて疑わなかったのだった。ばかだった。「スチロール」の意味もいまだわからないけれども、「チロール」だなんていよいよもってわからない。
ちなみに妻の兄もつい最近まで「プラスチック」のことを「プラッチック」だと思い込んでいた。友人と話している時に「プラッチック」「プラッチック」と言っていたら「なんでそんなに巻き舌で言うの?」と言われて初めて気付いたそうだった。きょうだい揃ってばかだった。

興に乗って切っただけの「のれん」に使い道のない「おでん」のはんこをポンと押して、とうとう鼻さんの家は出来た。どうせ何かを作るのならお菓子でも焼けば素敵っぽい奥さんになれるのに、妻が手を出すのはどうしてこんなに実生活に関係ないものばかりなのか。

引越し開始。
残りの板をくっつけて作ったいごいごに歪んだ棚にピンセットで慎重にものを配置してから最後に鼻さんを置いてためつすがめつ眺めてご満悦。

なぜだか出したい生活感。
炊飯器の横のふせた茶碗と「しょうゆさし」が特に良い。自画自賛しつつ仕事から帰ってきた夫にさっそく見せると夫はソファの前の小さなテーブルに乗せていたこの鼻さんハウスに「すごーい!」と言いながら駆け寄って、勢いあまってテーブルの脚をぼがーんと蹴ってあわれハウスの中の家具はミニチュアもろともバキャーンとほうぼうに飛び散った。
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