発汗しない
夫休暇中のある日。
新聞屋さんからとてもお得なチケットをいただいたので、夫婦二人で喜び勇んで「有馬温泉」へドライブ。神戸から車でたったの1時間で旅情満載。趣のある旅館でごちそうを食べて宿泊するもの良いけれど、日帰りも悪くない。良い旅と夢気分が味わえて手元には割引券。お得が織り成すハーモニー。
温泉の前に街をそぞろ歩き。
有馬温泉は日本最古の温泉で、豊臣秀吉が愛したところ。有馬温泉には金泉と銀泉があって、金泉は湧出直後は茶褐色に濁っている。湧き出る炭酸水と小麦粉を混ぜて焼いた炭酸せんべいはおみやげものとして有名なのだった。街中いたるところに炭酸せんべい。さっそく友人のおみやげにと缶入りのおせんべいを買うと、お店のおばさんは「これをあげましょう」と言って炭酸せんべいが5枚入った袋を妻にくれた。妻はなんだかもうものすごく嬉しくなってしまって、お礼を言って受け取りさんざ眺めて楽しんで家に持ち帰りしばらく置いておいたらせんべいはしけしけに湿気て愚かにも焼き立てを逃した。
夫と妻が行ったのは、旅館に併設されている岩盤浴もできる大きな温泉施設。ふたりして岩盤浴初体験。
厚手の作務衣のようなものを貸してもらって中に入ると心地よい温度の暗い空間があって、そこには「ネパール産の岩塩でできた岩盤」だとか「阿蘇山の溶岩を固めてつくりました」だとかさまざま岩盤が用意されていて夫と妻は目移り。とりあえず桃色の岩塩でできた岩盤に寝っころがってみる。
友人に聞けば「気持ちよくて寝ちゃったよ」とうっとり言っていたので妻もさあ寝るぞと意気込んで目を閉じる。天井の低い部屋の中には有馬温泉の天然のミストがシューと漂っていて、とどめに「癒えろ」といわんばかりのヒーリングミュージックが小さな音で流れている。これでもかというかんじ。しかし妻は張り切りすぎてちっとも眠れず、持ち前の代謝の悪さでもって汗もあまりかかず、次第に焦りが。制限時間は30分。汗かけ。汗をかけ。
仕方なく10分延長して居座り。夫はどうかしらと隣の夫をチラと見ると、悪夢を見たひとのように夫は汗だく。でも顔は安らか。という岩盤浴の見本みたいな寝方をしていて妻はとてもうらやましい。よく見れば夫は足の甲にまで汗をかいていた。足の甲に汗をかいているひとなんあまり見たことがない。いいな。夫はすっかり満足して、「さあ出よう」と言って起き上がって流れる汗もそのままにぺしゃ、ぺしゃ、と歩いて行った。悔しいので夫に「妖怪びしゃびしゃ」という名前をつけて有馬おわり。

会うと友人は「夏の休暇を利用して富士山に行ってきた」と言って、妻におみやげをくれた。その中のひとつ。ワインオープナー。

